フリーランスの保護 経緯まとめ

フリーランス 副業・兼業

フリーランスや兼業・副業、テレワークなど、政府は多様な働き方を推進し、環境整備を行うことで働き手の確保につなげる方針です。

/新しい働き方の定着(成長戦略ポータルサイト)

フリーランスで働く人は増加していて、2020年の内閣官房の調査では、462万人に達すると報告されています。

しかし、フリーランスとしての働き方が広まるにつれ、事故に遭った場合などにどう保護するかが問題となってきました。

厚生労働省は10月2日、「第15回個人事業主等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会」を開催し、報告書をまとめました。フリーランスを労働安全衛生法の保護対象とすることについては、業務中の事故が相次いでいることから、厚生労働省が7月に方針を示していました。報告書では、フリーランスを死傷病報告や安全衛生教育の対象とすることを義務付けるなどとしています。

今後は審議会等の審議を経て、法整備が進められるものと思われます。

この記事では、これまでの経緯が分かるように、まとめてみようと思います。

フリーランスとは

Uber Eatsのデリバラーをイメージする人も多いでしょうか。

「フリーランス」について明確な定義はなく、辞書では、

企業や団体に所属することなく、個人として仕事を請け負う活動・契約形態、および、そのような形で仕事を請け負う人

Weblio 辞書

のように説明されています。また、後出するフリーランスガイドラインには、

本ガイドラインにおける「フリーランス」とは、実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者を指すこととする

フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドラインより

との記載があります。

「実店舗がなく」とありますので、たとえば我々社会保険労務士のように事務所を構えて事業を営む個人事業主は、ガイドラインでいう「フリーランス」には該当しないようです(同ガイドライン<別紙1>フリーランスの定義について)。

従業員を雇用しない法人の代表者(一人社長)は、フリーランスに含まれています。

フリーターやアルバイトと混同してしまうかもしれませんが、フリーターやアルバイトは雇い主と雇用契約を結び、指揮命令を受けて労務を提供し、賃金を受けますので、労働基準法で言う「労働者」にあたります。

一方、フリーランスは発注者と業務委託契約を締結して業務を行い、対価として報酬を得ます。

業務委託契約が請負か委任かの違いはありますが、いずれにしても発注者は委託先に対して、業務遂行に関し指揮命令は行いません。

住宅の建設を大工さんに委託することをイメージしていただくとわかりやすいでしょうか。建築士さんと打ち合わせをし、設計してもらい、決まったところで建築会社(大工さん)に発注するとします。この場合、「住宅の完成」と、それに対する報酬の支払いが契約の内容です。納期の問題はありますが、何時から何時まで作業しろとか、作業の進め方などを指示することはありません(設計内容を打ち合わせして指示することはもちろんありますが、作業中の指示はない、ということですね)。

フリーランスは独立して働くわけですから、労働者とは明らかに働き方が違います。働き方は自分で決めるわけです。当然労働法によって保護されることは原則としてありません。仕事をする上での自身の安全は、自身で守らなければなりません。

働き方改革(安倍政権時代)

働き方改革関連法が施行されたのは2019年です。「働き方改革の目指すもの」については、厚生労働省のホームページにこのような記述があります。

「働き方改革」の目指すもの
我が国は、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの状況に直面しています。
こうした中、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。

「働き方改革」は、この課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。

「働き方改革」の実現に向けて(厚生労働省)より

一方、フリーランスについては、経済産業省が平成28年に当時の世耕経産大臣と行った懇談会の資料があります。

/「雇用関係によらない働き方」について(現状と課題)(経済産業省)

この中で大臣は、「フリーランスは働き方改革の鍵となる。日本経済が成長するためには、フリーランスのような雇用関係によらない働き方によって、働き手ひとりひとりの能力を、最大限に引き出すことが必要」という旨述べています(筆者要約)。

パワハラ指針における言及

労働施策総合推進法(旧雇用対策法)の施行に伴い告示された、いわゆるパワハラ指針(事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針 令和2.1.15 厚生労働省告示第5号)において、「事業主が自らの雇用する労働者以外の者に対する言動に関し行うことが望ましい取組の内容」として、

事業主は、当該事業主が雇用する労働者が、他の労働者(他の事業主が雇用する労働者及び求職者を含む。)のみならず、個人事業主、インターンシップを行っている者等の労働者以外の者に対する言動についても必要な注意を払うよう配慮するとともに、事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)自らと労働者も、労働者以外の者に対する言動について必要な注意を払うよう努めることが望ましい。

令和2年 パワハラ指針より

としています(マーカーは筆者)。

本来パワハラは職場における言動が問題になるものですが、指針ではもう一段踏み込み、フリーランスのような受託者に対して発注者は優越的な立場にあるため、言動が必要かつ相当な範囲を超えないよう、配慮を促したものと言えるでしょう。

フリーランス ガイドライン

令和2年に内閣官房が行ったフリーランスの実態を把握するための調査の結果を受け、政府は成長戦略実行計画において、フリーランスとして安心して働ける環境を整備するため、保護ルールの整備を行うとしました。

このことを踏まえ、フリーランスガイドライン(フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン)が、令和3年3月26日に策定されました。

本ガイドラインは、独占禁止法、下請法、労働法のフリーランスへの適用関係を整理したものになっています。

労災 特別加入の適用拡大

労災は、労働者が業務上の負傷・疾病など業務災害に遭った場合に、使用者が負うべき労働基準法上の補償責任を肩代わりしてくれる制度です。労基法上保護されない通勤途中の事故についても、補償対象としています。

労働者が仕事中に事故に遭った場合、仕事中の安全を管理するのは事業主ですから、事故は事業主の責任です。事業主は、自分の責任で自分の安全対策を決定し実行する立場です。労働者ではありませんので、労災の保護対象ではありません。

しかし小規模事業場などでは、社長も従業員と同じように作業を行うケースも少なくありません。従業員と同じ、あるいは近い状況で働いているのに、全く保護を受けられないのは不合理ではないかという議論から、特別加入制度が創設されました。中小企業の経営者や、いわゆる一人親方と呼ばれる方も、特別加入すれば労災から給付を受けられるようになりました(労働保険事務組合に事務を委託することが要件になっています)。

令和3年9月から、この特別加入の対象に、自転車を使用して貨物運送事業を行う者(つまりUber Eatsのようなやつですね)、ITフリーランスが加わりました。

/令和3年9月1日から労災保険の「特別加入」の対象が広がりました(厚生労働省)

建設アスベスト訴訟判決(最判一小令和3年5月17日)

労働安全衛生法22条は、健康障害を防止するための必要な措置を事業者に義務付けていますが、建設作業で石綿(アスベスト)にばく露し、肺がん等に罹患した一人親方等がその保護対象となるかが争点の一つとなっていました。

最高裁は、「石綿の規制根拠である安衛法第22条は、労働者だけでなく、同じ場所で働く労働者でない者も保護する趣旨」であるとの判断をしました。

労働大臣は,(中略)安衛法に基づく規制権限を行使して,石綿含有建材の表示及び石綿含有建材を取り扱う建設現場における掲示として,石綿含有建材から生ずる粉じんを吸入すると重篤な石綿
関連疾患を発症する危険があること並びに石綿粉じんを発散させる作業及びその周囲における作業をする際には必ず適切な防じんマスクを着用する必要があることを示すように指導監督すべきであったというべきところ,上記の規制権限は,労働者を保護するためのみならず,労働者に該当しない建設作業従事者を保護するためにも行使されるべきものであったというべきである。

判決文一部抜粋

この判決を受け、厚生労働省が議論を行い、令和4年に前述の「個人事業主等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会」が設けられた経緯があります。

労働者性に関する問題

フリーランスのように請負で働く人たちに対し、発注者が本来行わないはずの指揮命令を行っている事例がしばしば指摘されます。

こういった事態が起きやすいのが、例えば構内請負です。

請負業者が、発注元(または元請)の事業場内で受託業務を行うというもので、同じ敷地内ということからついつい、作業に指示をしてしまうのでしょうか。

もし事故が起こってしまえば、事故と指揮命令を行っていたこととの因果関係を否定するのは難しくなります。

労働法令上はあくまでも実態が問題になりますので、契約が請負であったとしても、指揮命令があったとして労働者性が認められれば賠償責任が問われることになります。

指揮命令を行っていた(加えて賃金を支払い源泉徴収までしていた)として労働者性が肯定された判例としては、請負契約ではなく研修医の例ですが、関西医科大学研修医事件(最⼆⼩判平成17年6月3日)があります。

Amazon配達員に労災認定

インターネット通販大手アマゾンジャパンの商品配達を委託された60代の男性が、昨年9月、配達中に階段から落ちて腰を骨折した件について、横須賀労働基準監督署が労災認定したと報じられました。

認定理由はまだ明らかにされていませんが、スマホアプリで作業指示を受けていたことが労働者性の認定につながったとみられています。

(ちなみに、労災が認められるということと、労基法・民法上の賠償責任が認められるかということは、必ずしも一致するものではありません)

配達を請け負う個人事業主が、さばききれないほどの仕事を受けざるをえなかったり、再配達によって長時間の労働を余儀なくされるなど、業務負担の大きさが問題となっています。

配達業務に限らず、個人事業主(あるいは、フリーランス)と契約して業務を委託している多くの企業にも影響することが考えられます。

特定受託事業者取引適正化法

ガイドラインは法律の適用関係を整理するにとどまりましたが、具体的な法整備が行われました。「フリーランス新法」などとも呼ばれるこの法律(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、今年4月28日に可決成立し、令和6年11月までに施行されることとなっています。

この法律の保護対象は、特定受託事業者、特定受託業務従事者の2つです。

(定義)
第二条 この法律において「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
一 個人であって、従業員を使用しないもの
二 法人であって、一の代表者以外に他の役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者をいう。第六項第二号において同じ。)がなく、かつ、従業員を使用しないもの
2 この法律において「特定受託業務従事者」とは、特定受託事業者である前項第一号に掲げる個人及び特定受託事業者である同項第二号に掲げる法人の代表者をいう。

特定受託事業者取引適正化法

前出のガイドラインのように「実店舗がなく」とはなっていませんので、我々個人開業の社会保険労務士も特定受託事業者に該当しそうです。

発注者に対し、給付内容等の明示、支払期日等、禁止事項などを定めるほか、育児介護等への配慮、ハラスメント防止措置なども求め、公正取引委員会、中小企業庁長官、厚生労働大臣の命令違反及び検査拒否等に対しては罰則も設けられています(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)説明資料)。

詳細は、今後政省令、ガイドライン等により明らかにされるものと思われます。

おわりに

フリーランスで働く方が増えるに従い、事故なども増加してくるでしょう。その保護をどうするかは重要な問題です。

フリーランスへの労働安全衛生法の適用は、いわば労働者性の議論をすっ飛ばして法律に規定してしまおうというもので、業務委託先の安全管理責任を負わせるという、踏み込んだものです。

個人的には、安全衛生法の趣旨にかんがみると、いささか乱暴ではないかと感じます。やるにしても別個の法律で行うべきではないでしょうか(確かに、最高裁は「同じ場所で働く労働者でない者も保護する趣旨」と判断していますが)。また、安全管理、監督署への報告、健康診断の実施など労働者性を前提とするような責任を発注者に負わせるのは、ある意味筋違いです。指揮命令を行わないことを徹底させる、不当な取引を行わせないようにするなど(実効性の確保が難しいのは分かりますが)、原則的な取り組みの重要性を感じます。

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※記載内容は投稿時のものです。法改正等により変更となる場合があります。

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