解雇予告の除外認定

解雇 労働基準

解雇予告の除外認定について平成30年1月に書いた記事です。たくさんアクセスいただいたので、転記しておきます(一部修正しています)。

(—–ここから—–)

以前このようなご質問を受けたことがあります。

「労働基準監督署の認定を受ければ、労働者を即時解雇できるんですよね?」

もしかしたら誤解があるのでは…という感じです。その方もお話を伺ってみると誤解なさっていました。

ちょっと分かりづらいところですので、条文から見てみます。

労働基準法

(解雇制限)
第十九条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
2 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。

(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
2 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
3 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。

19条の解雇制限の規定から載せていますが、ここで問題になるのは2項だけですね。

つまり、こう書かれています。

「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、解雇予告はしなくてもよい(即時解雇できる)。この場合、解雇の事由について行政官庁の認定を受けなければならない。」

素直に考えれば、「即時解雇する場合は、行政官庁の認定を受けなければならない」のだから、「行政官庁の認定を受ければ、即時解雇できる」と考えるのが普通でしょう。ですが、

「監督署の認定を受けたんだから、行政のお墨付きがもらえた。即時解雇は有効だ。」

そう考えてしまったとしたら、実は誤りなんです。

ここで比較のため、36条の条文を見てみます。36協定の条文です。

第三十六条 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この項において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。ただし、坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は、一日について二時間を超えてはならない。
2項以下 略

ここで重要なのは、「~書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においてはに関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。」の部分です。「協定をし、届け出た場合においては」となっていますので、協定を締結して届け出ることが要件であることがわかります。

一方で20条の基本的な条文構成は、「労働者を解雇する場合は、解雇予告か解雇予告手当の支払いをしなければならない。ただし天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、しなくてもよい(即時解雇できる)。」というものです。つまり事実さえあれば即時解雇できるわけです。行政官庁の認定は単に手続き上の問題であって、即時解雇の要件ではありません。「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合」又は「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」であるという事実があるかどうかを確認する、そういう意味での「認定」なのであって、この認定を受けたからと言って即時解雇が有効かどうかはまた別の問題です。「即時解雇するなら、こういう手順を踏んでください」と定めているに過ぎないのです。即時解雇をしようとする事業主に対して足枷を課している、ということですね。

例えば行政官庁の認定を受けたとしても、裁判になり即時解雇が無効と判決を受ければ、その即時解雇は無効です。そんなバカな!と思われるかもしれませんが、そもそも解雇が有効か無効か行政が判断できるはずがありません。判断するのは司法の役目であり、要するに裁判所が決めることです。

仮に認定を受けることなく即時解雇したとしても、「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合」又は「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」であるという事実が現に存在するのであれば、解雇は有効であると考えられます。

「じゃあ認定なんて受ける必要ないじゃないか。どうせ関係ないんでしょ。」と思われるかもしれませんが、認定を受けなければ労働基準法第20条3項に違反するわけで、罰則を受ける可能性があります。解雇予告手当を支払わなければならないのに支払っていない場合は付加金の支払いを命じられる可能性もあります。

行政通達に、こうあります。

<法第19条及び第20条の認定の性格及び処理方針>

(一)法第19条及び20条による認定は、原則として解雇の意思表示をなす前に受けるべきものであるが、法第19条第1項ただし書及び法第20条第1項ただし書の認定は、ただし書に該当する事実があるか否かを確認する処分であって、認定されるべき事実がある場合には使用者は有効に即時解雇をなし得るものと解されるので、即時解雇の意思表示をした後、解雇予告除外認定を得た場合はその解雇の効力は使用者が即時解雇の意思表示をした日に発生すると解される。

なお、使用者が認定申請を遅らせることは、法第19条又は第20条違反である。

(二)略

(昭和63年3月14日 基発150号)

認定をせずに即時解雇してしまった場合でも、後からでも認定を受ければ有効のようです。ただ受けられればの話で、実務上は解雇してしまった後に認定を受けようとしても受け付けてもらえず、解雇予告か解雇予告手当の支払いを求められたりするようです。やはり認定は解雇の意思表示をする前に受けなければなりません。数週間はかかるようですから注意してください。

ちなみに「労働者の責に帰すべき事由」については、こうあります。

<労働者の責に帰すべき事由>

「労働者の責に帰すべき事由」とは、労働者の故意、過失又はこれと同視すべき事由であるが、判定に当っては、労働者の地位、職質、継続勤務年限、勤務状況等を考慮の上、総合的に判断すべきであり、「労働者の責に帰すべき事由」が法第20条の保護を与える必要のない程度に重大又は悪質なものであり、従って使用者をして係る労働者に30日前に解雇の予告をなさしめることが当該自由と比較して均衡を失するようなものに限って認定すべきものである。

(中略)

認定に当たっては、必ずしも右の個々の例示に拘泥することなく総合的かつ実質的に判断すること。
なお、就業規則等に規定されている懲戒解雇事由についてもこれに拘束されることはないこと。

(昭和63年3月14日 基発150号)

懲戒解雇事由については就業規則に定められている必要がありますが、除外認定に関しては就業規則の規定に拘束されることなく、個々に、総合的に判断されます。

(平成30年1月15日)
(平成30年1月16日一部修正)
(令和5年4月19日一部修正)

※記載内容は投稿時のものです。法改正等により変更となる場合があります。

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