新型コロナウィルス感染症 5類へ移行 企業のとるべき対応とは

新型コロナ 安全衛生

新型コロナウィルス感染症は、5月8日より、感染症法上の扱いが2類相当から5類へ引き下げられました。

これまでは感染者、濃厚接触者に対しては、特措法により都道府県知事が入院勧告、就業制限、外出自粛要請を行ってきました。入院費・治療費も公費負担で行われ、ワクチン接種などについても自己負担はありませんでした(結局は税金なので、回りまわって負担しているわけですが)。今後は感染したとしても外出自粛要請等は行われず、個人の判断に委ねられます。治療や入院など、医療費は原則、自己負担が生じることになります(ワクチンについては当面の間、公費負担で接種が受けられるとのことです)。

/新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後の対応について(厚生労働省)

これまで企業としては、感染者や濃厚接触者の取り扱いについては、感染症法による都道府県の措置で休業等となるため特に企業が休業命令を出す必要はありませんでした。従業員が自ら有給休暇を取得する、私傷病で欠勤扱いとする、独自の制度として特別休暇を付与するなどの対応をとってこられたことと思います。

今後は、感染者や濃厚接触者の取り扱いについて、企業の判断が求められます。以下、従業員に感染者が出た場合など、企業のとるべき対応についてまとめました。

労働安全衛生法による就業禁止

労働安全衛生法では、労働者が「伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるもの」に罹患した場合、就業を禁止しなければならないと規定されています。

第六十八条 事業者は、伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるものにかかつた労働者については、厚生労働省令で定めるところにより、その就業を禁止しなければならない。

労働安全衛生法

「厚生労働省令で定めるもの」は、施行規則に規定されています。

第六十一条 事業者は、次の各号のいずれかに該当する者については、その就業を禁止しなければならない。ただし、第一号に掲げる者について伝染予防の措置をした場合は、この限りでない。
一 病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかつた者
二 心臓、腎臓、肺等の疾病で労働のため病勢が著しく増悪するおそれのあるものにかかつた者
三 前各号に準ずる疾病で厚生労働大臣が定めるものにかかつた者
2 事業者は、前項の規定により、就業を禁止しようとするときは、あらかじめ、産業医その他専門の医師の意見をきかなければならない。

労働安全衛生規則

「三 前各号に準ずる疾病で厚生労働大臣が定めるものにかかつた者」は、現在規定されていません。

ここで問題になるのが、5類移行後の新型コロナウィルス感染症が「一 病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病」に該当するのかどうかです。該当するのであれば、少なくとも感染者は法に基づき就業禁止しなければなりません。

行政通達「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令の施行について」(平成12年3月30日基発第207号)には、こうあります。

第四 関係通達の改正
(一) (略)
(二)第一項第一号には、伝染させるおそれが著しいと認められる結核にかかっている者があること。
(三)第一項ただし書の「伝染予防の措置」とは、ツベルクリン皮内反応陽性者のみに接する業務に就かせることをいうこと。

行政通達「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令の施行について」(平成12年3月30日基発第207号)

ここでは結核が例示されているのみです。

新型コロナウィルス感染症が労働安全衛生法上の就業禁止の対象となるとは言えません。少なくとも現時点では、感染している、あるいは濃厚接触者であることをもって、労働安全衛生法に基づく就業禁止とすることはできない、ということになります。

※「濃厚接触者」の定義については、厚生労働省「新型コロナウイルス最前線」に定義が記載されています。

/新型コロナウイルス最前線(厚生労働省)

感染者、濃厚接触者への対応

では、従業員が感染したり、濃厚接触者となった場合はどのように対応すべきでしょうか。以下パターン別に見ていきます。

感染していて、症状がある場合

PCR検査等で陽性であり、発熱などの症状がある場合です。

症状があることから従業員が自ら有給休暇を取得して休む場合は、通常の私傷病と同じです。また、欠勤することもあるでしょうし、会社が特別に定めた病気休暇などがあればそれを利用することも考えられます。

問題は感染し、症状もあるのに従業員が就業しようとする場合です。レアなケースかもしれませんが、比較的症状が軽い場合など可能性はあります。

政府は、「個人の主体的な判断が尊重されるよう、ご配慮をお願いします。」としています。

休業手当

就業して問題ないと会社が考えるのであれば話は別ですが、休業命令を出す場合は、労働基準法第26条の休業手当を支払う必要があります。

第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

労働基準法

症状があるから休ませるのに、「使用者の責に帰すべき事由」になるのか?という疑問もあるでしょう。

従業員に働く意思がある以上、会社の都合で休ませるしかないと言えます。しかし本人が働きたいと言ったとしても、客観的に症状を見て働けない、少なくとも仕事を完全にはこなせないという状況の場合、従業員が債務の履行を提供していることになるのでしょうか。

現実的には、従業員の主治医に診断書を作成してもらい、場合によっては事業所の産業医の意見を聴くなどして、客観的に判断する必要がありそうです。そのうえで従業員と話し合い、合意の上で休業命令を出す、などの対応をするのが望ましいと考えます。

就業規則には、休業命令や休業手当に関して、規定を設けておきましょう。

コロナ休暇制度

ところで、症状があるのに就業しようとする理由は、例えば有給休暇が残っておらず、欠勤控除されてその月の給料が少なくなってしまうのを避けるために多少無理をして・・・ということが考えられます。

休業命令の代わりに、福利厚生の一環として、手当の付くコロナ休暇を制度化するのはいかがでしょう。例えば、厚労省が「発症日を0日目として5日間は外出を控えること」を推奨していますので、年間6日程度を限度に取得できるような制度です。

(規定例)
第〇〇条 コロナ休暇
 社員が新型コロナウィルス感染症に罹患した場合、症状の有無・軽重にかかわらず、会社に申し出ることにより、発症日(無症状の場合には検査の検体採取日)を0日目として、5日目まで、連続したコロナ休暇を取得することができる。取得できる日数は、一事業年度につき6日間を限度とする。
2 前項の休暇を取得したときは、コロナ休暇手当として、一日当たり〇〇〇円を支給する。
3 第1項の休暇を取得した社員は、事後速やかに、検査結果を証明する書類を提出しなければならない。当該休暇にかかる検査を複数受けた場合には、最初に陽性判定を受けた検査結果を証明する書類を提出しなければならない。
4 第1項の休暇を取得したにもかかわらず、なお症状が続いている場合には、会社は第1項の限度日数を超えて休暇を付与することができる。この場合の限度日数を超える日数については、第2項の手当を支給しない。

手当の額を、休業手当のだいたいの金額と同じか、やや多めにしておけば、感染した場合はすすんで休暇を取得してもらえるでしょう。

感染していて、無症状の場合

症状があり、自分から有給休暇を取得するような場合とは異なり、症状がないのであれば出勤したいと考えることも十分あり得ます。。

しかし出勤してほかの従業員に感染させる可能性があるなら、会社の判断で休業命令を出すことを検討しなければなりません。テレワークなど感染の危険性のない働き方ができればよいですが、無理な場合は休業命令を出さざるを得ません。その場合休業手当の支払いも必要です。

では、支店で一人で勤務している場合などはどうでしょうか。

他の従業員への感染リスクがないのであれば、会社として休業命令を出す根拠はありません。しかし、社会的合理性の観点から(厚生労働省「基本的感染対策の考え方について」より)、通勤途中など感染リスクを考慮して休業させる、ということを検討するのはあり得ます。

法律によって外出を制限することはないため、原則として個人の判断にゆだねられます。政府は、無症状の場合は検体採取日を0日目として5日間は外出を控えることが望ましいとしています。

この場合も前述のようなコロナ休暇の制度があれば、すすんで休暇を取得してもらえるでしょう。

濃厚接触者となった場合

今後は保健所から濃厚接触者の特定を受けたり、外出自粛を求められることはなくなります。該当するかどうかは、現状では感染者との接触状況等を聞き取り、会社が判断するしかありません。

潜伏期間中は感染しているかどうか判断できませんので、場合によっては休業命令を出し、潜伏期間経過後に検査をし就業させるかどうか判断せざるを得ないでしょう。

マスクの着用、入退室時の検温、手指の消毒を義務付けられるか

政府は「感染対策の実施については個人・事業者の判断が基本」としています。

企業は事業内容、職場環境、取引先との関係や、従業員の年齢構成、持病の有無、通勤方法など様々な事情を勘案して感染対策を検討する必要があると思われます。

すでに報道されているように、企業はアクリル板や検温装置を撤去したり、マスクの着用を従業員個人の判断とするなどの対応をしています。一方でマスク着用を義務とする企業もあります。対応は企業の判断に委ねられています。

例えばマスク着用を義務とする場合、就業規則に規定すればもちろんですが、口頭による業務指示でも、民事的な拘束力を持たせることはできます。

従わない従業員を処分できるか

通常はそれで問題ないはずなのですが、それでもマスクをしない従業員がいたら、どうでしょうか。

「政府は個人の判断だと言っているじゃないか。絶対マスクはしない!!!」

可能性は低いと思いますが、絶対にないとは言えません。

従わない場合、服務規律違反となります。繰り返し注意・指導しても改善しない場合は、懲戒も検討することになるでしょう。しかし、マスクをしないことで職場環境がどう悪化したか、企業秩序の維持の観点から見た場合、重い処分は難しいと考えられます。

懲戒処分を行うには、就業規則に根拠が必要です。注意・指導は記録に残すようにしましょう。

(令和5年12月25日 一部修正)

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※記載内容は投稿時のものです。法改正等により変更となる場合があります。

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